KYOMAF B-SIDE | 京都のコンテンツビジネス支援プラットフォーム。京まふ  
TOP

【京まふ2025直前イベント】アニメ業界のリアルに迫る!作り手たちが語るアニメ制作の最前線【開催レポート】

「京都国際マンガ・アニメフェア2025(京まふ)」を盛り上げる直前イベントとして、立命館大学映像学部「社会連携プログラム」講義との連携、およびコミュニティ・バンク京信 QUESTION(京都信用金庫)の共催によるトークイベントが開催されました。

本イベントは、アニメ業界での活躍を志す学生や若手クリエイターのキャリアを応援することを目的としています。ゲストには株式会社サイエンスSARUのアニメーションプロデューサー・番匠彩子氏と、TOHO animation STUDIO所属のアニメーター・ちな氏、モデレーターには株式会社ハヤブサフィルムのアニメプロデューサー・はたなかたいち氏が登壇。業界の最前線を知るプロフェッショナルたちによる、未来へのヒントが詰まった貴重なセッションが展開されました。

メーカーと制作会社、全く異なる「プロデューサー」の役割

まず共有されたのは、同じ「プロデューサー」という肩書でも、所属によって役割が全く異なるという点です。「メーカー側のプロデューサー」は企画立案、資金調達、商品化などプロジェクト全体の事業性を担う一方、「制作会社のプロデューサー」は現場のスタッフィングや工程管理を行い、作品のクオリティを担保する実務責任者です。この前提を明確にした上で、それぞれのキャリアパスが語られました。

「クリエイターを支える」から「並走する」へ

株式会社サイエンスSARUの番匠氏は、当初は制作現場とは距離のあるビジネスサイド(管理部門)の業務に従事していましたが、組織内の人員事情をきっかけに制作部門へ異動。そこで「体力があるうちに経験すべき」と飛び込んだ現場仕事に自身の適性を見出しました。

番匠氏は「自分が企画を通すよりも、目の前のクリエイターが作りたいものを実現する方がモチベーションになる」と語ります。その後、デジタル作画など先進的な環境を求めて転職し、現在は山田尚子監督らトップクリエイターと共に作品を作っています。キャリアを重ねる中で、単にクリエイターを「支える」だけでなく、作品のビジョンを共有し「並走する」パートナーとしての意識が強くなったという心境の変化は、多くの参加者の関心を集めました。

「個」の限界と「チーム」への転換

一方のちな氏は、20代前半はフリーランスとして「絵を描く喜び」に浸っていましたが、25歳頃に転機が訪れます。「アニメはチーム制作であり、個人の技術だけでは作品の質を高めるのに限界がある」と痛感したのです。そこから、仲間が安心して働ける環境や、ビジネスサイドとの対話のしやすさを求めて組織に所属する道を選択。「個」から「チーム」へと視座が高まった経緯が語られました。

「ブラック」は過去の話? 劇的に改善された労働環境

議論は、業界のホットトピックである「働き方」へも及びました。登壇者全員が口を揃えたのは、この10年で労働環境が「劇的に改善された」という事実です。

背景にあるのは、制作会社の親会社が上場企業になるなど、資本構造の変化によるコンプライアンス意識の高まりです。加えて、コロナ禍とデジタル化が決定打となりました。かつて制作進行の象徴的な業務だった、車で各家庭を回る「原画回収」はデジタル納品によりほぼ消滅。現在では、朝9時出社・18時退社を実現しているスタジオや、フレックス制で個人の裁量を重んじる会社も増えており、かつての過酷なイメージは過去のものになりつつある現状が報告されました。

次世代へのメッセージ:人生を楽しむことが創作の糧

セッションの最後、登壇者たちは次世代へ向けてエールを送りました。「今の若い世代が見たい新しい映像に期待している」という言葉とともに強調されたのは、「ライフワークバランスの大切さ」でした。

「アニメで描くのは世界そのもの。だからこそ、仕事以外の遊びや旅行、多様な経験がすべてクリエイティブの糧になる」。プロとして長く走り続けるためにも、自分の人生を楽しみ、豊かな世界観を育んでほしいという温かいメッセージで、イベントは締めくくられました。

« 前の記事