
2025年7月3日、京都市京セラ美術館にて、IVSサイドイベントとしてトークセッション「マンガ編集者から起業家へ~マンガの破壊的イノベーション~」が開催されました。
株式会社コルク代表の佐渡島庸平氏とジャーナリストのまつもとあつし氏が登壇し、AI時代のクリエイティブとビジネスの未来について議論を深めました。
「編集者サディ」と国のAI戦略
セッション冒頭、話題は佐渡島氏の思考を学習させたAI「編集者サディ」に及びました。現在コルク社内では、スタッフが佐渡島氏本人に代わってまずAIに相談することが日常化しています。実際に、ある打ち合わせで佐渡島氏がした回答と、事前にスタッフが「編集者サディ」から得ていた回答が完全に一致していたというエピソードが披露され、故人ではなく現役経営者のAIを活用する先進性が示されました。
また、佐渡島氏は石破首相直下のAI戦略会議のメンバー(わずか8名)の一員でもあります。コンテンツとAIの両方を深く理解する人材が不足している現状から、国レベルでの政策立案にも深く関わっている背景が語られました。

制作期間を1/5に短縮、AI漫画制作の最前線
漫画制作におけるAI活用は、驚くべきスピードで進化しています。佐渡島氏が立ち上げたAI漫画制作会社では、キャラクターの表情やアクションシーンの姿勢保持における安定性が飛躍的に向上。従来5日かかっていた作画工程がわずか1日に短縮され、週刊連載を十分にサポートできる体制が整いつつあります。
佐渡島氏は「Photoshopやアシスタントを使うのと感覚は変わらない」と語り、トップクリエイターほどAIを「共創パートナー」としてポジティブに受け入れている現状を紹介しました。
書籍・音楽における「共創」とプロセスの変化
AIとの共創は漫画にとどまりません。書籍制作では、20時間に近いインタビューデータをAIオペレーターと「編集者サディ」が構成することで、佐渡島氏本人だけでは到達できない精度の文章が生成されているといいます。
また会場では、漫画『運命のリフォーカス』の主題歌として、AIツール「Suno」を用いて制作された楽曲が披露されました。漫画のセリフを歌詞に落とし込む過程で、逆に歌詞から漫画の修正案が生まれるなど、AIを介することで創作プロセスそのものに相互作用が生まれています。
AI時代に磨くべき「身体性」と「センス」
AIが膨大な知識から「中央値」や「正解」を導き出すのが得意な一方で、人間には何が求められるのか。佐渡島氏は「自分の心が動くかどうか」という判断基準の重要性を強調しました。
そのための訓練として紹介されたのが「5本指シューズ」の例です。足の裏の感覚という身体性を研ぎ澄ますことが、結果として作品に触れた際の微細な感情の変化(センス)を鋭敏にするといいます。言語化・数値化できない「センス」こそが、AI時代における人間の最大の武器になると語られました。
「役に立つ」から「楽しい」へ。クリエイター中心の経済圏
セッションの結びとして、将来の経済圏についての展望が語られました。「役に立つもの」が飽和した現代において、これからの価値は「楽しいもの」へシフトしていきます。
佐渡島氏は、自身が着用している『宇宙兄弟』のコラボシャツを例に、ファンコミュニティを通じた直接的な経済活動の広がりを指摘。将来的には株式会社という形態を超え、クリエイターを中心としたトークンエコノミーのような、「この人が言うなら」という共感をベースにした経済圏が主流になっていくであろうと予測し、会場の熱気と共にセッションは幕を閉じました。
